落合守征の仕事術—「星庵」の制作を巡って—【前編】

ドイツ、アメリカ、イタリア、イギリスなどの世界最高峰のデザイン賞iFデザイン賞の最高位金賞に加え、数多くの国際デザイン賞の受賞してきた建築家・落合守征さん。

 

2018年から2019年にかけても数多くのデザイン賞を受賞されました[1]。今回は、そうした作品をまとめるのに加えて、岡山県美星町でのプロジェクトで創られた「星庵 / 星空を眺める茶室群 SEI-AN / Constellation of Stargazing Tea Ceremony House」についてインタビューをしました。インタビューで特にお聞きしたかったのは「落合さんが世界的な評価を受ける理由」です。

お聞きする中でわかってきたのは、制作の背景に、建築家・落合守征さんの制作観やそれに対応する具体的な方法論、そして、海外マーケットを視野に入れた現代日本におけるクリエイティブの課題意識がありました。

 

S:「星庵」のプロジェクトの制作プロセスとコンセプトについて教えてください。

 

O:このプロジェクトは、美星町の町おこし組織「IR美星」の代表の方が補助金コンペに応募し、それが取れたのがキッカケです。美星町は、日本三選星名所の一つで、日本で初めて「美しい星空を守る条例」が制定された町でもあります。今回の依頼は、そうした美星町の星や星空を生かしたまちおこしの名目で「星と人とをつなぐようなものが欲しい」という依頼でした。約1年半の期間で制作を進め、2018年9月にお披露目となりました。

まず、コンセプトですが、デザインリサーチを進める中で、「美星」は「美山川」と「星田川」という二つの川から名前が取られていること、と美星町のある「備中地域」が栄西という臨済宗の開祖が生まれ、栄西が「茶」の文化や「禅」を広めた方であること、がわかってきました。そうしたことから、「川」と「茶室」という文脈を組み合わせることで、茶室を20機作り、川の流れのように群(ぐん)で配置する建築装置をつくったという感じです。茶室の色自体は「星の色」から取ってきています。恒星の色って、高い温度から、青白、白、黄色、赤というようになっているので、そうした恒星の色からすべてつくっています。あと、茶室には一部、ステンレスの「ミラー」が貼ってあるですが、それは美星町が、お米が採れるところで歩いていると水田があって、水田には空や緑が反射したりしているので、そういうモチーフを入れています。そして、そういった群になる装置を、星空の見えるビュースポットに置いて、様々なイベントに対応できる場、新しい風景をつくっていく、ということが構想されています。

O:制作プロセスとしては、せっかく「まちおこし」なので、町の子供達にも自分ごとで考えてもらえるように、一緒に「星を眺める装置」を制作するワークショップを2回行いました。1回目は、最初にぼくの方から「星を眺めること」についてやその装置が古代インドから始まったことなどのレクチャーをし、その後、試作品を参考にしつつ、星を眺める装置のスケッチをしてもらって、用意していた段ボールを使って制作する、という流れです。

全体としては、4時間ぐらいのワークショップで、幼稚園から中学生ぐらいの子供達が参加してくれたのですが、みんな真面目にやってもらえてちょっとびっくりましたね。2時間ぐらいずっと絵を描いている子供がいて、すごい集中力だな、と。このワークショップは、デザインリサーチとしては、観測装置となる茶室の「開口」の開け方の発想を広げ方に役立ちました。

 

 

これが1回目のワークショップで、2回目は、実際に、いきなりつくってもらうのは難しいので、先に1回目を参考にしつつ、事例となるような試作品をぼくの方で設計し、地元の工務店の方にサンプルをいろいろつくってもらいました。その上で途中までできている装置のベニア板を塗ったり、デニムを貼ったりして、完成させるという流れです。「開口」となった切った破片の方は、色塗ったりして、茶室の中などに使う「敷物」をつくってもらい、イベントで活用します。

 

 

S:なるほど、おもしろいですね。ちなみに、落合さんは前からこういったそこにいる方々を巻きんでいくデザインリサーチをしているんですか?

 

O:これは初めてですね。今回は町の人と一緒にやるのにあたって、そういうことが必要かな、と思っての自然の流れですね。自分一人でつくる仕事でもないなぁ、って。町おこしの人たちがずっと続けていた活動の継続に私が入るので、その人たちの活動や思いを考えたとき、みんなでつくっていこうという流れですね。あと補助金っていうのもやっぱりあるので。で、このIR美星は「世界に発信したい」という思いがあったんです。実際、海外の賞をいただいたり、メディアに掲載していただきました。[2]

海外のメディアが注目してくれるのは、おそらく「星の下」ということに「普遍性」があるのだと思います。なので、「星庵」は「星を見る」という普遍性と、「茶」や「川」というローカルな文脈が合わさって発信される。美星町は、少し過疎化する地域なのですが、文化資源として発信し、「BISEI JAPAN」という言葉が海外のメディアに出るというのは、インバウンドも含めて非常に意味のあるところかと思っています。

また将来的に、例えば、アラブの戦争地域にも地下水脈やオアシスってあるじゃないですか。そういうところに、これを千個ぐらい並べて、茶のセレモニーをする。戦場のメリークリスマスじゃないですけど、政治的にも宗教的にもある種「ミディアム」な日本の微妙な立ち位置がある中で、そういうことができるとも思います。それが「美星」という「美しい星の見える町」から始まったっていうのはいいんじゃないかなぁ、と。ゆっくりとですが、コツコツ続けていくのがいいんではないか、と思っています。

 

(【後編】に続く)

 

[脚注]

[1]:「星空を眺める茶室群」受賞歴

Architecture Master Prize 2018 Winner / 建築部門 ( アメリカ )
Architecture Master Prize 2018 Winner / ランドスケープ部門 ( アメリカ )
A’ Design Award 2018 Winner ( イタリア )
Restaurant & Bar Design Award shortlist / pop up 部門 ( イギリス )
Best of Year Award 2018 Honorees / Exhibition & Installation 部門 ( INTERIOR DESIGN誌 / アメリカ )
日本サインデザイン協会 SDA賞 銅賞/中国地区賞

[2]掲載されたメディア
・designboom

https://www.designboom.com/architecture/moriyuki-ochiai-architects-constellation-stargazing-tea-rooms-japan-04-23-2018/?fbclid=IwAR1m8KY1ZQWDluzssxRjjQ_GUax4aYqP7XuxRqwZqTx6LHkter_Va9ntwso

・日本商環境デザイン協会(JCD)レビュー

https://space-design.jp/constellation-of-stargazing-tea-house/?fbclid=IwAR2BmO5fy7hhtTdPeB-H5aUICbLyBroZRecoItWPnyTmFq1shDOQNuwY4WQ