【前編】都市のビジョンは、どのようにつくられていくべきか|クリエイティブ思考で未来の都市を考える(仮) 公開企画会議


2019年3月25日、渋谷キャスト ステージにて、トップクリエイターや編集者、都市開発に関わる運営者を交えたトークディスカッション「クリエイティブ思考で未来の都市を考える(仮)」公開企画会議が開催されました。本イベントは、昨年4月に渋谷キャストの開業1周年を記念して開催されたトークディスカッションから発展して生まれたもので、来場者を巻き込んでの白熱した議論を前後編でたっぷりお届けします。

会場に入ると、登壇者5名が囲むテーブルが中央に置かれ、さらに周りを聴衆が取り囲むレイアウト。これは「公開企画会議」の名の通り、普段の企画会議をそのまま見てもらおう、そこに聴衆も加わってもらおう、という開催者の狙いが現れたものです。

 

クリエイター、編集者、ディベロッパーそれぞれが見る都市

企画開催者の春蒔プロジェクト代表・田中陽明氏は冒頭の挨拶で、「都市はみんなのものなので、自由にディスカッションできる場にしたい」そして、「クリエーターがビジョンを提案し、その目標に向かって開発者が集うことに意義を感じている。様々な利害を超えた繋がりをつくっていくのはクリエイターの役目だと思う」と語りました。この会では、都市開発にはビジョンを共有しながら進めることが大切と捉え、ビジョン決定までのプロセスを共有したい、としています。

続いて田中氏は、渋谷キャスト1周年祭時のトークディスカッションと同じ顔ぶれとなる登壇者を紹介。4月に行われる開業2周年企画でのディスカッションに向けた内容となることが示されました。

渋谷キャスト総支配人の水口貴尋氏(東京急行電鉄)は、2周年祭では「リーダブル」をテーマに掲げていることに触れ、渋谷キャストが目指す姿を実験の場として積極的にアウトプットする予定であることを紹介。「新しい街の使い方や見え方を感じてもらえれば」としました。

「デベロッパーでも設計者でもなく、俯瞰的に物事を見ている」と田中氏から紹介された齋藤精一氏(ライゾマティクス)は、デジタルなクリエイション表現の第一人者。建築がベースにあり都市計画や再開発案件にも関わるなかで、「街について普段断片的に話していることを、今日はまとめていきます」と話した。

続けて紹介された豊田啓介氏(noiz 共同主宰)はコンピューテーショナルデザインによる建築デザインの先駆者で、2025年の大阪万国博覧会では招致会場計画アドバイザーを務めています。「これまでに煮詰められてこなかった内容についても、この会議で議論することで価値を見出すことができるのではないか」と期待を語りました。

激変する東京の姿を克明に伝える『東京大改造マップ』(日経BPムック)の企画・編集を担当する山本恵久氏(日経 xTECH・日経アーキテクチュア編集委員)は、「毎年内容を更新し、俯瞰的に都市開発の状況を知るためのメディアとして認知されています」と語り、本会議では実際に動いている都市の様子とリンクしながら発言されることが予期されました。

そして田中氏の主宰する春蒔プロジェクトは、クリエイター専用シェアオフィスco-lab(コーラボ)を企画運営していることから、都内の大規模開発数カ所でブランディングディレクションを手掛けているといい、本会議でも内容をまとめながら進行していくことが示されました。

 

東京の都市風景に対する疑念から生まれた斎藤氏の提言

まず田中氏から掲げられたのは、以前からの議論の中で斎藤氏から頂いた「日本の都市開発はもっとディベロッパー間で議論したほうがいい」という提言です。この内容を念頭に置きながら、まずは登壇者が最近の活動内容を話すことが促され、齋藤氏から話が始まりました。

現在は神奈川県の葉山町に住んでいるという齋藤氏は、通勤で高速道路から見える東京の景色や軌道までが日々変化していること、また多くの街でオリンピックやその後に向けて開発が進んでいることを挙げつつ、「このままでいいのだろうか?」と疑問を抱くといいます。というのも、開発ではビルの中層フロアにインキュベーションセンターやクリエイティブセンター、市民ホールなどを入れたり、公開空地を設けたりする事例が多いものの、建物の容積率の緩和を受けることが第一の目的となり、「とりあえず設ける」風潮があるのではないか、というのが齋藤氏の見方です。

英国の建築家集団アーキグラムのいう「都市のメディア化」に影響を受けた齋藤氏は、「現代の都市開発は超複雑系で、建物だけの計画であっても、例えば自動運転や地方創生なども絡んできます。どうせなら、いろんなことができるはず。企業が競合して別々に開発を進めるよりも、文化創造やロボティクスなども一緒にしたほうがいい」と述べ、4月のディスカッションでは「自分が妄想する東京都市計画を出そうと考えています」と発言。また齋藤氏は、都市開発に関わるデベロッパー、行政、クリエイターの各プレイヤー間に温度差があり、自身が間に入ることで円滑に進めようとしています。

その具体的な近年の活動として、齋藤氏はデータの共有化とプラットフォーム化を紹介。『Shibuya 3D Underground』では渋谷の地下を3Dでデジタルスキャンし、データをダウンロードできるように。NHKと協働して進める『1964 TOKYO VR』は、1964年当時の写真を3D化してVRで体験できる試みです。「ブロックチェーンの仕組みを使えば、競合する企業間でも情報のシェアは可能。企業ごとにつくるものを、共有しながら経済圏をつくる必要があります」としました。

 

大半のモノにデジタル実装される未来に対応した都市開発

豊田氏は最近、デジタル技術で設計と施工に関わる以外に、「gluon」として建築・都市を軸にしたコンサルティングを行っています。「20〜30年後の都市計画や生活プラットフォーム、製品などを演繹的に考えて落とし込んでいます」と語った。豊田氏は世界の経済動向を振り返り、1990年頃まではものづくりのメーカーが世界を席巻した後、90年代からは情報に価値が移り、情報プラットフォームが台頭したことを分析します。

Title JPN:1980年以降のグローバル企業の世代的変遷
Title EN:A Generation Diagram of Global Corporations after 1980
credit: noiz
URL:https://noizarchitects.com/

「しかし、モノを扱わなければ高い価値を生み出せないことから、第三世代のプラットフォーマーと呼ばれるAmazonやアリババといった企業が出現しました。さらに第四世代としては、UberやAirbnb、WeWorkなどが、既存の都市にある不動産や不動産に準じるものを、価値や機能側を編集して移動させることで、本来は動かないモノが動くかのような環境をつくることが行われています。この流れで第五世代は、既存の都市領域を複合的に扱える情報プラットフォーマーになるはず」と指摘しました。

また続けて、「第三世代や第四世代のプラットフォーマーは圧倒的な資金力で第五世代を取りに動いていますが、モノのつくり方やモノに宿る属性、その背景や歴史の使い方を意外なほどに知らない点が壁になっています。取り残された第一世代のモノにまつわる情報が金鉱脈になりつつあり、情報化の共通言語を持つことで第五世代にジャンプする可能性があります」とも指摘。

一方で、Googleやアリババなどが莫大な資金を投入して実現しようとしている「スマートシティ」は、都市全体をデジタル化することでサービスを提供しようというものです。豊田氏は、既存のモノをデジタル実装する際には 「コモングラウンド」にする必要があるといいます。

これは、モノ側にもセンサーやマーカーが設置されて情報とインタラクティブな状態であること。これまでになかったサービスができ、経済的な動きの根本が変わり、プレイヤーの仕組みも変わる未来を予測します。ただし人間と違い、デジタルエージェントと呼ばれる自律走行やロボット、建物にインストールされたAIなどは、モノは何かしらのかたちでデジタル記述されるまでは認識されることがありません。

「デジタルエージェントの視点で理解しやすく街をつくることが大事になってきます。Googleなど一社の寡占状態は反発を受け、ヨーロッパのような自治体主導型は技術力やスピード感に劣る面があるなかで、日本では企業連合体として複数の領域が結束すれば、世界的に見ても最先端の知見と資金が集まるだけの体力がかろうじて残っています。また、企業が集まるときにはオープンであることが前提になるので、寡占されることがないものができる可能性があります。そうしたとき、万博のような旗印があるのはいい機会。会場を構成するプロセスや、つくった後にどれだけ可能性を残し、インタラクティヴで離散的で流動的な都市計画ができるかを考えています」としました。

加えて、「都市で所有やシェアの形態が動的に変わっていくなかで、どのようなシステムをデザインし、そのなかでの経済活動はどう変わっていくかといったことを今からモデルとして構築していかないと、例えば2035年の都市開発には間に合いません。うまく考えていくには、デベロッパーが個別に取り組むのではなく、資本や技術、実装機会をもっと大きな視点でつくることが必要なのではないでしょうか」と斎藤氏の提言を強く推しました。

 

都市開発する上で、容積率の次の価値観はどこにあるのか

山本氏は『東京大改造マップ』について、「変貌する東京の姿を知りたいというニーズは根強いようだ」と手応えを語りつつ、取り上げているプロジェクトは延べ面積が1万㎡以上の規模のもので、実際には1万㎡未満のプロジェクトも数多く進行し、よりダイナミックに街が動いていることを説明。また、誌面の企画では「都市再生」プロジェクトをテーマとする座談会を収録するなかで、2002年制定の都市再生特別措置法の下で運用される「都市再生特別地区」や、より手続きをワンストップ化する「国家戦略特別区域(特区)」による都市開発の功罪も取り上げたと語りました。

「対象となる地区では、都市計画上の用途や容積率、高さなどの規制をいったん適用除外とし、改めて、そのプロジェクトの特性に応じて設定し直します。都市に対する貢献の度合いに応じ、容積率の上乗せなどを行って推進するものです。民間の力を活用して競争原理を働かせるものなので、プロジェクトごとに最適化がなされたとしても、各地区の開発事業者の間で連携して都市の魅力を高める、という方向には行っていません」

「誌面で企画した座談会で指摘があったのは、都市全体の計画は本来、マスタープランの下でコントロールされてきたものです。ただ、2000年代、10年代の都市再生プロジェクトの動きを見る限りでは、特定の再開発事業などの魅力を高める『プロジェクト主義』に転換したので、都市全体としての強みをつくる俯瞰的な視点が弱まっていった。だから1つには、マスタープラン的なものによる誘導を再評価し、似たような都市開発プロジェクトが乱立しないよう、一定のコントロールをしてはどうか。もう1つには、都市に対する貢献のインセンティブを容積率に終始させず、別のものに広げていけないか。そんな議論が前面に出てくる局面になっています」と投げかけました。


地図制作:ユニオンマップ
出所:日経アーキテクチュア別冊ムック『東京大改造マップ2019-20XX』

これまでの話を受けて、水口氏はデベロッパーの立場として「不動産投資事業モデル」を説明。ある敷地に対して、どのような土地利用をすれば最も不動産価値として収益が上がるかを考え、それに基づいて用途や床面積を決めて開発をするといいます。建物はマーケットの価格や想定する賃料をもとにつくられるため、個々の敷地を超えた総合的な議論にならないという現状を解説しました。

また、特区で複合的な大規模開発を行う際には「最有効使用」というモデルがあり、例えば地域社会に貢献する用途の施設などをつくることで容積率のボーナスをもらう仕組みがあることを紹介しました。これも基本的には単体の敷地の場合と同じで、どのようなものを建てればどれほど収益が上がるかで検討されると指摘。

「改めて振り返ると、思考回路がまったく違うところから始まっています。デベロッパー間で調整して、まちづくりを計画的にしていきましょうと呼びかけても、根付いた思考回路を切り替えるところから始めないとなかなか難しいと感じています。右肩上がりで成長している時期には問題がなかったかもしれませんが、これからはいよいよ真剣に考えなければならないフェーズになっています」としました。

登壇者の活動、また立ち位置や視点が明らかになったうえで、いよいよ議論は活発化していきます。後半では、企画会議の様子を各登壇者の発言を追いながらお伝えします。

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