【後編】『202X URBAN VISIONARY vol.3』ー「都市開発事業と運営・エリアマネジメント」

【後編】都市開発事業と運営・エリアマネジメント

ライゾマティクス齋藤氏より、都市開発における先導的なマスタープラン不足の現状について課題の投げ込みがなされた初回議論から 初回議論を受けて開催されたvol.2「都市開発におけるコンセプトを俯瞰する」での議論を経て、202X時代の幕開けとなる今回は「都市開発事業と運営・エリアマネジメント」をテーマに開催しました。今回は丸の内・大手町エリアの交流拠点「3×3Lab Future」へと会場を移し、都市開発事業者それぞれのエリアマネジメントの取り組みを伺うとともに、これからどのように街と関わりながら運営することができるか、互いの意見を交わし合いました。

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ーエリア価値をデジタルで測るー

齋藤氏はここで「ICT化によって、利益率を定量的に数値化しアナライズする時代が来たと思う」と指摘。デベロッパーが協力して、エリアの価値をデジタルで測る仕組みを開発することを提案しました。「数値化によって意図せず明るみに出てしまうことがあるかもしれませんが、恐れてブレーキがかかっていると何も前に進みません。日本でドネーションがなかなかないというのも、価値をダイレクトに分かろうとしない風潮があるためでしょう。日本は効果測定がとても下手で、例えば1兆円を投資しても、その後の効果測定はしていないに等しく、感覚論に流されてしまいます。それでも判断基準をしっかりとする必要があり、来た人が多いというだけでなく、エモーションに刺さっているのかはインタビューも含めて測らなくてはいけません」と言及しました。豊田氏はそれを受けて「データを取るところから始めるのは当然のこととして、分析するロジックを開発するR&D機能がまったく足りていないように思います。例えば、AIで解析するためのエンジンをどのようなものにして、どのようなデータをかませてどう調整していくのかというようなことには膨大な投資が必要ですが、そうしたプレイヤーが日本にはいない気がします」と答えました。

齋藤氏は「ゑびや大食堂」という店でカメラを設置してデータを取り始め、未来予測や店舗分析サービスの「EBILAB(エビラボ)」につながった例を示し、「ライトにできることは皆さんでまずやってみて、広域でマクロに連携する方向もある気がします」と後押ししました。山口氏も「多様な担い手に参画いただき、都市データをセンシングし続け、指標化することはどんどんやっていくべき。しかし、まち全体に効くような施策の成果要因は多様すぎ、施策そのものの是非よりも、トライアンドエラーとして次なる都市政策の意志決定要素として使えるとよい。」と答えました。


豊田氏はこの点で中氏に、自社の一体開発で複合施設を持っている森ビルに可能性が高いとみて、戦略があるかを尋ねました。中氏は、「BIDのように賃料からマネジメントのためのコストを支払い、質の高いサービスを提供する仕組みはあると思いますが、BIDの導入で集う人のライフスタイルはそれほど変わらないのではないかと感じています。虎ノ門・麻布台プロジェクトは、人の営みから考え『モダン・アーバン・ビレッジ』という街のコンセプトを掲げているのですが、ここに来ると何かが違う、例えばゴミの捨て方が違うといった人の営みが変わる仕組みを取り入れるとします。その裏側に実はテクノロジーがあるということができるといいなと考えています。入り口がテクノロジーや集金の仕方ではビジネスライクで堅苦しくなるので、そこにクリエイティブという力を入れたい。社外のアイディアも広く聴きながら、イベントだけでなく、新たな視点を取り入れて行きたいです。そして、既存の施設ではデータの分析が難しい側面もあるので、新しいところで初めからデータ分析を志向し、そのためのシステムを組み込みながら、街を設計するのがいいのではないかと考えています」と感想を交えて答えました。

ー社会や産業構造の変化に迅速対応できるまちづくりー

山本恵久氏は、先回までの議論の中で開発がマスタープラン型からプロセス型へ移行する話題がたびたび上がってきたことを踏まえ、測定が街のつくられ方に機敏に影響を与えることがあるのかどうかを尋ねました。この質問を受けて齋藤氏は、再び日本の傾向を指摘。

「日本はPDCAが回らない国だと思っていまして、効果測定を嫌がるのでPDCあたりで止まるのですね。2周目に入らず、次の新しい1周をつくってしまう。そうではなく、すぐにレスポンスできるような街の姿を描くことは必要でしょう。防災や災害時の対策、経済情勢が変わったときにプログラムを一気に変えられるような街です。例えば、賃料の坪単価を3万8000円であったところが、状況が変わったときにクイックに2万4000円という指針ができるようなプランも、エリアマネジメントやデータドリブンの方法です。そうした実践はあるのでしょうか」と投げかけました。


これに対して直接的には答えが出にくいなかで、雨宮氏は日本橋での取り組みを紹介します。「日本橋では『ライフサイエンス』という新しい領域を掲げてオフィスの使われ方や知のイノベーション、すなわち産業創造の場が変化していることをとらえたビジネスモデルに取組んでいます。もともと日本橋は薬問屋の街で今でも地元企業に製薬会社さんが多くあります。いわゆる「ドライラボ」と言われる事務打合せのためのスペースを用意したことが始まりです。しかしビジネスの現場では「ウェットラボ」という実験スペースが必要であったり、短期間でチームアップして研究開発するためのスペースが必要であったりと新たなニーズが見えてきました。この日本橋の例からもわかるように、様々な分野でビジネスモデルはオープンイノベーション型へと変化しており、多様な分野の多彩な人材が街に出入りすることになりそこに様々な才能の化学反応が起きています。エリアマネジメントの中でこうした場と情報を提供していくことで、東京の中での地域性、差異化ができるのではないかと思っています」。

山口氏は「渋谷はクリエイティブコンテンツ産業。前回まででも触れたが、街ごとに個性を、が原則。」と触れた上で、「しかし共通するものもある。よく『イノベーション」とよく言わるが、都市では『オープン・イノベーション』でなければ意味がない。発露してコトを起こすまでの間にクリエイターが混じってジャンプするような過程が必要で、まちそれぞれの産業の個性に沿った、多様な交流創発機能は全てのまちにあるべきではないでしょうか。」と指摘しました。続けて藤井氏は、大手町を抱く大丸有が、世界に向けた場として「FINOLAB(フィノラボ)」を設けて好評を博していることを紹介。「FINOLABにはイギリスなどのフィンテックカンパニーや日本の大手銀行が拠点を置き、一緒に議論したり新しいサービスの開発をしています。そうした活動を後押しするエリアマネジメントの新たな活動として、都心型エリアMICE誘致・創出を目的とした『DMO東京 丸の内』を立ち上げ、例えば毎年開催される「FIN/SUM(フィンサム)」といったイベントなどの開催支援をしています。オールインワン型の大きな施設の中だけでMICEを完結させるのではなく、街として、面として国内外から人を迎えMICEイベントを楽しんでもらうという姿を目指しています」。


齋藤氏は複数の取り組みの話を受けて、「やはりモノをつくり表現するクリエイティブな人がエリアマネジメントの中では大事ですし、エリアマネジメントが1つになるためにはイベントなどを開催することで始まることも多い」としつつ、雨宮氏の言及した「ドライラボからウェットラボに」という内容に注目。「本当のウェットラボになると用途地域にも関わってくると思うのですが、インキュベーションやエリア自体が成長することを考えると、用途地域の違うものを隣につくりアップデートできるようになるといい」と、インセンティブのかたちも、容積率の緩和とボーナス以外にさまざまあるのではないかと指摘しました。

ーこれからのインセンティブの形ー

豊田氏は、登壇者にインセンティブの希望を募ります。山口氏は「まずオーソドックスには補助金、税、容積とあり、時流や制度に依存する補助金よりも本来は税で、それを原資に公益還元できればよいが一番難しい。となると民主体で動ける容積の工夫、例えば、もう少し広域に捉え、木密解消と緊急整備地域の異なる社会課題容積交換のような提案をしたことがある。」と語りました。中氏は「再開発で道路をつくらなければならないとき、『道路』と規定せずに、もっと柔軟に、交通インフラの機能を担保すれば、その在り方の選択肢は幅広く設ける、というインセンティブがほしいですね」と語りました。田中氏は「渋谷CASTではクリエイターに入ってもらって公開空地でのイベントを企画して開催してきました。中間的で自由な使い方の要望がルール化されていけば、本当に使いたい方法が定着してくのではないでしょうか」と意見しました。雨宮氏は、「都市が速いスピードで変化するなかで、土地利用のかたちが変わり、用途地域の画一的な設定が足かせになっていると感じます」とし、「乱開発は避けつつも、さまざまな状況に対して用途地域も柔軟に見直す仕組みが必要と思います」と要望を口にしました。


これらの意見を受けて豊田氏は「社会のインフラをデベロッパーがつくるという意味では、民間と行政の境界がどんどん曖昧になり、行政的なことを民間がやる、一方で民間的なことを行政が行う仕組みがシームレスになっていくでしょう」と予測。藤井氏は「インセンティブというのもそうですが、都市計画上の用途の見直しが必要と感じます。これから例えば住宅なのかオフィスなのか分からないようなものはたくさん出てきますし、それらに対応できるように変えてほしい。また、民が主体で進めるエリアマネジメントは官に代わってその街を良くするという半公共的側面を持っており、固定資産税や都市計画税の一部を振り分けられるなどの仕組みがあるといいのではないかと思います」と指摘しました。

ー会場からの質問ー

時間が差し迫ったところで、会場からの質問を受け付けました。ここで出たのは「各企業が過去のプロジェクトでためてきた知見を、リソースとして外に開示するのか自社内で掘り起こすような取り組みはあるのか」という質問です。それに対して各登壇者が顔を見合わせるなかで、山本氏は「建築の分野では重鎮に聞くような文化は多くあると思うのですが、都市分野では確かに蓄積がよく見えてきません」と指摘しました。齋藤氏は「オーラル・ヒストリーには、言語化されて共有される文化的な強さがある」と強調。高度経済成長期の方向を決めた方々がいなくなりはじめ、大規模な再開発に関わられた方々が現役を引退される今の時期に、事実とノウハウを伝えるべきではないかと意見を述べました。


ー最後にー

最後にまとめとして、齋藤氏はこの日の議論から受けた気づきを話しました。「思っていたよりも互いが連携しそうだなと感じました。エリアマネジメントは、そのエリアの価値を高めることから始まっていたものの、今は『価値をつくる』ことに役割が変わりつつあるように思います。そのときに、エリアマネジメントでも皆さんが力をかけておられることが今日の話でも分かったので、会社仕切りではなくエリア仕切りで、スクラムを組んでエリアのブランド価値を上げていくことが大事ではないでしょうか。そしてインセンティブの話では、特例措置のようなことは国や行政でしかできないので、エリアマネジメントが価値を生むことをもっと理解いただかないといけないでしょう」。豊田氏は「エリアマネジメントが1.0から2.0の時代に入ったと強引に話をすると、これまでのエリアマネジメントのイメージよりももう少し戦略的なテナントマネジメント、もしくは医療系やフィンテック系など、ディレクションのマネジメントもシームレスにつながっているように思います。同時にアートも、彫刻のような物質的な作品の次に、アート的なイベントやコンテンツに代わられつつあるとすると、モノからシステム的なものに移行する流れがあるでしょう。今日の話ではエリアマネジメント的な内容とコンテンツデザイン、全体のブランディングがつながる印象がありました」と振り返りました。そして再開発からその周辺、都市全体とスケールを横断するビジョンにエリアマネジメントが拡張的につながる可能性について、またエリアごとに差異化をしたうえでどのように共存して可能性を広げるかについては、今後も継続的に議論していきたいとしました。

3回目の議論を終え、さらに話題の広がりと気づきを得た「202X URBAN VISIONARY」。次回のvol.4でも、いっそう深い議論が繰り広げられることに期待が高まります。


ーspecial thanks to 『3×3Lab Future』ー

今回会場として利用させていただいた3×3Lab Future。丸の内と大手町エリアのビジネス交流拠点として、「交流・啓発機能」「ラボラトリー機能」「ショーケース機能」の3つの機能をベースに11のゾーンからフロアが成り立ちます。

本編トークが進む舞台裏、ワークショップキッチンでは懇親会用のフードの準備が進められました。「急げー!」「間に合うかな!?」などと声を掛合いながら大慌てで調理が進み、ぴったり時間内に出来上がったお料理は写真に入りきらない程の品数!この日のために仕入れられた新鮮な野菜やお米を使ったメニューはどれも家では食べられないけど、家庭的な安心する美味しさでした。豪華な食事を囲みながら、懇親会パートがさらに盛り上がったことは言うまでもありません。ライゾマ斎藤氏からは「こんなに誰も最後まで帰らない懇親会は初めてです!(笑)」という最後の挨拶に会場は笑いに包まれました。