co-lab 設立の理由

「co-lab」の着想は、私がアーティストとして作品を制作する中で「アートによって問題提起をし、デザインや建築によって問題解決ができる」と気づいたことでした。そのような連携を具体的な形で実現するためには、メディアアート(=コミュニケーション)と建築(=箱)が融合した場が求められると実感し、領域横断的なクリエイションの場をつくりたいという思いで 2003 年に「co-lab」を設立しました。
18 世紀後半の産業革命以来となる IT による大変革により、社会、特に生産活動を行う働く場については再定義が求められるようになり、そこに応える環境づくりを行わければという問題意識が強く起こったことが大きな理由でした。
また大学院時代にソーシャルデザインをコンセプトにしたメディアアートユニットでさまざまな社会実験を行った経験から、アートに終始せず社会還元的なプロジェクトを行うことの意義を実感したことも理由の一つにありました。
「→アートで問題提起 → デザインで解答 → ビジネスやポリシーで解決/実行 →」という循環が非常に重要であること、すなわちクリエイティブ思考での発想と着地こそが、根源的な社会の改善につながると考えたのです。
そのような思考をもつクリエイターが集い、相乗的に発展していける場を設け、サポートする環境を用意すること、その答えが「co-lab」でした。

「集合型」プラットフォーム「co-lab」が生みだす価値

「co-lab」は 2003 年にスタートした、インディペンデントに活動するデザイナーや建築家、アーティストなど異業種のクリエイターのためのシェアード・コラボレーション・スタジオです。
主な特徴は、集まった人たちと「プロジェクト単位で集合体で働く」という働き方を提唱していたことでした。童話作家レオ・レオニの作品『スイミー』のお話の如く、個人の集合体が大きな企業や行政等とフラットに対話しながら並走していく姿をイメージしています。ネット社会における集合知の可能性を信じ、優秀な人材の集積によるピア効果によって、高いクオリティーのアウトプットが生まれる環境をつくりだすことを主眼としています。
既存の企業組織型、あるいはフリーランス形態の個人型でもない、その中間的な領域である「集合型」のプラットフォームを目指し、さまざまなクリエイティブ分野のシナジーによる「集合知」を通じた、新しい表現や価値観の創出を重視しています。

「co-lab」のこれまでとこれから

一般的なシェアオフィスが単にオフィス空間の分割提供なのに対して、co-lab では入会クリエイターが同じ場所をフラットにシェアし、交流・コラボレーションが積極的に行われるよう空間設計を行っています。
さらに、交流を喚起するための各種のファリシテーションも基本的なサービスとして提供しており、ハード・ソフトの両面からクリエイティブなコラボレーション誘発をサポートしています。
クリエイターの創造性を高めるために創り上げたこのシステムは、将来的にクリエイターに限らず多様な業界・職種にも広げ、クリエイティブな思考を働かせるためのサポートをしていく予定です。
また co-lab による「集合知」の実践として、クリエイティブなアプローチを必要としている外部クライアントのビジネス案件に対してコンサルティングからソリューション提供までを手がけています。各案件に対して、求められるスキルセットに応じて co-lab 関係者から最適なプロジェクトチームを編成し、各専門性を持ったクリエイターのコラボレーションを通じて課題解決にあたります。
さらに、co-lab の事務局を介さずとも会員クリエイター同士、もしくは内外のパートナーと自発的にプロジェクトチームを組み、仕事を請けていただくことも積極的に応援し、『つくるをつくる』場としての機能を最大限に整えるようにしています。

クリエイティブの力で本当の豊かさのある街や社会をつくる

インディペンデントのクリエイターにとってその活動を維持するためには、経済的に自立したサステイナブルなシステムの確立が必要不可欠です。そのシステムの確立こそが日本の芸術文化レベルの向上を促し、成熟社会に入った日本において本当の豊かさを生み出すと感じています。
今後、AI の技術が進化し、効率性重視の仕事やルーティンワークが取って変わられていくなか、遊びやクリエイティブだけは人間が自身で行う仕事として残っていくのではないかと思っています。そんな遊びの時代には、遊びと境界なく仕事をしてきたクリエイターの仕事の仕方、価値観やライフスタイルが再評価・再活用されてくるのではないでしょうか。そのような時代にクリエイターの意義が広く認識され、誰もがクリエイティブになれるコミュニティをつくり、街や社会つくることこそが、この IT 革命以降の新しい時代に最も必要なことだと確信しています。
クリエイターをサポートしながら、複数拠点に増えた co-lab それぞれにコンセプトや機能を持たせ、点と点を線にそして面に成長させ、縮小していく都市に向けた新たなあり方に寄与してゆくこと。co-lab はこれからも、クリエイティブの拠点であり、社会的な課題解決の“場”として存在を追求しつづけます。

プロフィール

主宰者プロフィール写真

田中陽明 / HARUAKI TANAKA
春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役:クリエイティブ・ディレクター
co-lab 企画運営代表:クリエイティブ・ファシリテーター

1970 年 福井市生まれ。武蔵野美術大学建築学科を卒業後、大手ゼネコン(大林組)設計部を経て、慶応義塾大学大学院 SFC 政策メディア研究科 (メディアアート専攻) 修了。
大学院時代にメディアアートユニット flow を設立。
2003 年よりクリエイター専用のシェアード・コラボレーション・スタジオ co-lab (コーラボ) をスタート。
2005 年 春蒔プロジェクト株式会社を設立。クリエイティブ・ファシリテーターという立場で、制作環境を整える基盤整備から、co-lab という集合体のポテンシャルを生かした企画や運営を行い、クリエイティブ・ディレクターとして、さまざまなクリエイションの制作ディレクション、アウトプット監修まで行っている。

受賞歴
2003 ディスプレー産業賞大賞(経済産業大臣賞)『生命と環境の学習館』(クリエイティブ・ディレクション)
2006 日経ニューオフィス賞 寺岡精工/ソニーファシリティマネジメント(クリエイティブ・ディレクション)
2007 ディスプレー産業賞大賞 『65 億人のためのサバイバル展』 日本科学未来館(企画アドバイザー兼アーティスト)
2008 JCD デザインアワード2008 金賞 MUSVI with POINT(クリエイティブ・ディレクション)
2015 グッドデザイン賞 (co-labとして)

出版/記事掲載
『PUBLIC DESIGN』新しい公共のつくりかた / 学芸出版2016 馬場正尊氏と共著
『シェアをデザインする』 / 学芸出版 2013 成瀬猪熊等編著
『建築プロフェッションの解法』 / 彰国社 2011 高橋正明 共著
『リノベーションの現場』 / 彰国社  共著
『10+1』No.27 建築的/アート的 / 掲載 nIALL Project
『新世代建築家 100 選』
『新建築』その他、多数

co-lab について