孫正義育英財団×co-lab 初のコラボ企画「ファシリテート!クリエイティビティ」

天才数学少年にアイデア発想法を教えると生み出すもの

「孫正義育英財団のギフテッド」と「co-labクリエイター」がクロストークすると、何が生まれるのか――。刺激を与え合い、創造的なコラボレーションを生みだし続けてきたクリエイターの集積地co-labが、長年思い描いてきた孫正義育英財団とのコラボをついに実現しました。

高い志と異能を持つ若者に才能を開花できる環境を提供し、未来を創る人材を支援する。そうして人類の未来を明るくするために設立されたのが、孫正義育英財団です。

渋谷キャスト内でのインナーブランディング企画として、co-labが孫正義育英財団とのコラボプロジェクトをやる上で最も有意義ではないかと提案しました。

co-labを運営する春蒔プロジェクトの田中陽明と生田目一馬が企画コーディネーターを務め、ソーシャルデザインやインフォグラフィックスを得意とするco-lob二子玉川のメンバーcocoroéが、2人の対話をわかりやすく見える化。インプットからアウトプットまでのすべてを、孫正義育英財団とco-labで創り上げていきます。

対談を前に春蒔プロジェクト田中が、「若きギフテッドたちには、そもそもクリエイティブな思考が備わっています。そこにクリエイターが刺激を入れると、本人も気づいていなかった側面を発見できるのでは? 研究を促進する、新しい視点を得るきっかけになるのでは? 今回のコラボはそんなワクワクからスタートした、答えを探すことを目的としないブレスト対談プロジェクトです」と、あえてトークテーマを定めない狙いを伝えました。

才能を促進し、天才たちの新たな一面を発見していくブレスト対談「ファシリテート!クリエイティビティ」。今回席についてもらったのは、孫正義育英財団生で数学のスペシャリストである梶田光くんと、co-lab二子玉川のクリエイティブディレクター佐藤ねじさんです。専門分野も年齢もまったく違う2人の対話から生まれるものとは?

天才数学少年と気鋭クリエイターの頭のなか

佐藤ねじ(以下、ねじさん)
「かじたくんの数学YouTubeを見ました! ちょっとだけ数学をわかった気になって今日は来ています」

梶田光(以下、かじたくん)
「クリエイターの方とお話をするのは初めてなので、とても楽しみです」

ねじさん
「数学のように前提となる理論を考えるのって、とてもすてきですよね。僕は専門外だけど、一緒に仕事をするエンジニアから『数学はプログラミングで生きる』ってよく聞くから、意外と身近に感じているんですよ」

かじたくん
「そうなんですね。僕もプログラミングは好きで、ロボットにも力を入れているんです。でも、だいたいの時間はずっと数学のことばかり考えています」

ねじさん
「じゃあ、まずは今やっている数学を教えてもらいたいな」

かじたくん
「僕の研究テーマは、完全数や素数などを含む『初等整数論』です。その中で、いま力を入れているのが『φ(ファイ)』。1からnまでの整数で、互いに素なもの(一つを除き除算できる数がない)の個数を与える関数です」

ねじさん
「ファイなんだか面白そうだね。すごく初歩的な質問なんだけど、初等整数論はパズルみたいに解くのが面白いなんてことはあるの?」

かじたくん
「パズル的な楽しさがあるのはその通りですね。扱うのが整数なので、計算するとキレイな解が出てくることがあるんです。その中で、式が異なるのになぜか成立してしまう例外的なものも出てくるんです。これが何で成立するのかって研究もしています」

ねじさん
「なんかわかる。世の中にも、ルールに当てはまらないのに、なぜかうまくいってしまうものってあるよね。そういう『例外解』を探すときは、どんなアプローチになるの?」

かじたくん
「例外解って、普通の解き方では出てこないんです。例えばある数式の代数に11000万の数値を入れてプログラムで計算すると、ずらーっと固まった例外解が出てくることがあります。そうしたキレイな形の例外解たちを一つずつ計算していくんです」

ねじさん
「それは面白いなぁ。クリエイティブな世界にすごく似ている。例えばYouTubeにも法則ってある程度あるんだけど、それをきちんと理解した上で例外解を発見したときに、新しい形が生まれるんだよね」

かじたくん
PCで数値計算すると、本当に意味不明な解も出てくるんです。でも、その解を突き詰めても応用ができないから、やってもあまり意味がない。うまくいく解に出会えるかは、運ですね」

ねじさん
「そうだよね。アイデアも、ただ奇抜であれば面白いわけではなくて、普通を理解しないとダメ。山ほど考えても出てくるかどうかわからないし、運ってところも似ているなって。ちなみに、かじたくんはアイデアの出し方ってどうすればいいかわかる?」

かじたくん
「まったくわからないですw」

ねじさん
「話しがいがあるなー! 良い悪いは別にして、アイデアは『○○×○○』で作れます。何かを入れれば必ず1個できるから、わりと何でもこの式で考えられるよ」」

かじたくん
「○○×○○=アイデアか。初めて聞きました」

ねじさん
「それが基本の公式だね。例えば、『すべり台×ジェット=ジェットコースター』とか。さらに僕がやっているのは、数学でいう因数分解みたいに言葉の要素を定性的に分解していくこと」

かじたくん
「分解していくんですか。定量的にではなく、定性的に。それってどういうことですか?」

ねじさん
「本を読む目標をたてるときって、2つ考えられるよね。『本を100冊読む!』なら定量的で、『本を読んでデザインを覚える!』なら定性的。すべり台の要素分解を定性的にやると、すべり台=「すべる場所」「すべる人」「公園にある」「三角みたいな形」。こういうのをたくさん出していくのが要素分解だよ」

かじたくん
「へぇー。なんだか数学っぽい!」

ねじさん
「次は後ろの『×○○』で、僕がおすすめなのは『エフェクト』。冷やす、増やす、映画っぽくするとか、プログラミングでいうところの関数みたいなものかな。これをやるとバンバン浮かぶんだよね。アイデアは出ればいい。だから、数式みたいに考えることができるんだ。そうだ。せっかくだし、『定性数学』をやってみよっか?」

初めての「定性数学」で解くすべり台の方程式

ねじさん
「前の『〇〇×』はさっきも話した『すべり台』。後ろの『×○○』に何を入れる?」

かじたくん
「うーんじゃあ、デジタル。あと、明るい。それと……………時計かな」

ねじさん
「いいね! そのまま、アイデアを出してみようか。すべり台×デジタル=???」

かじたくん
「えーっと物理演算(※1)でオンラインにすべり台を作っていろいろな人たちと遊ぶ」
※1)物理演算:質量や速度など力学的な法則をシミュレーションできるソフトウェア

ねじさん
「おぉー! オンラインすべり台か。すぐにアイデアが出たね。しかも、なかなか面白いし。すべり台だけに特化したメタ空間を作ってもよさそうだね。悲しいことがあったらオンラインすべり台に行こっ、みたいな」

かじたくん
「あはははっ、面白そう! じゃあ、明るいだったら、すべる人に合わせて『点滅するすべり台』とかどうですか」

ねじさん
「アリだねー。夜に遊べるナイトパークとか。そうなったら、ほかの遊具も光らせたくなるね。光らせたら音も出したくなるし、普通に人気の公園になりそうだよ」

かじたくん
「あとは時計かえぇ!? 自分で言ったけど、まったく思いつかない」

ねじさん
「これだけ場当たり的になっちゃったかもしれないね。そういうときこそ要素分解。すべり台=『すべる』『子ども』『公園』『形』。時計=『時間』『動く』『形』『時・分・秒』に分解できる。その掛け算で考えるとどうかな」

かじたくん
「うーん。絶対に実現できないと思うけど、時計の針みたいに、その時間の角度になるすべり台」

ねじさん
「めちゃくちゃ面白いじゃない! ロンドンのアーティストとかが作りそうだなぁ。たしかに、すべり台と時計の針って似ているね。もう1個くらい出してみようか。人が増えてもいいし、増えるものは数字でも量でもいい。得意の数学で考えてもいいね」

かじたくん
「えーっと、その時間になると時と分の数字がすべり落ちてくるすべり台とか。6時40分なら『6』と『40』が落ちてくるような」

ねじさん
「すべり台形のデジタル時計ってことか。すごくかっこいい。実物大で作ったら人気が出そうだよ。どう? 数学の面からでも考えやすくなってきたんじゃないかな」

数学ファシリテート・クリエイティビティ=モジャ?

かじたくん
「時計って言ったときに、僕は何を言ってるんだって思ったけど、要素分解をしてみるとアイデアが出てくるんだなってビックリしました」

ねじさん
「この方法は、数学でいえば掛け算と因数分解、だから超初級。それに、もしかするとかじたくんが知っている高度な数学を応用すれば、もっとすごいことが浮かぶかもしれないよ」

かじたくん
「アイデアの出し方っていうより、アイデアの出し方の出し方って感じですね」

ねじさん
「僕が尊敬する佐藤雅彦(※2)さんの言葉に『作り方を作る』っていうのがあって、まさにそれだよね。佐藤さんは昔から数学の勉強をしてきた人。でも、数学者として研究するのではなく、子どもでも数学がわかる、楽しめるような方法を考えたんだ」
※2)佐藤雅彦:クリエイティブディレクター。『ピタゴラスイッチ』(Eテレ)など、数学の理論を面白く伝える日本の第一人者。

ねじさん
「佐藤さんは数学を映像にしたり、本や物語やゲームにしたり。僕もそういうジャンル飛ばしでやるのがすごく好きなんだよ。だから、さっきはすべり台でやったけど、本当に数学でできないかなーって、今ずっと考えています」

かじたくん
「数学ってφ(ファイ)とかですか? さすがに難しいんじゃないかな」

ねじさん
「めちゃくちゃ難しいね、『φ×○○』は。でも、これも要素分解していけば出るはず。φってギリシャ文字なんだよね。数学に使われていないギリシャ文字ってあるの?」

かじたくん
「η(イータ)は数学にないですね」

ねじさん
「僕がよく使うの掛け算が『×ウソ』。ηか……数学上には存在しない架空の記号だから………!! モジャモジャ頭の人が好きな数字だけが入る記号『モジャ』とか」

かじたくん
「あはははっ! なんか新しいAIみたい。数学の記号って何か数を入れれば、必ず何かの数が出てくるから間違いじゃないし。モジャ、すごくいいです」

ねじさん
「なるほど、入力と出力か。数値を入れるとキレイな例外解が出てくることもあるから、『×ビジュアル化』はどうかな。素数をアニメーションにする、っていうのはもうあるかぁ」

かじたくん
「僕も作ったことがあります! そういうふうな流れで、素数アニメーションのアイデアに行き着くんですね」

ねじさん
「あとは、かじたくんがやっているピアノで『×音』。素数を音階で捉えたら、ものすごくキレイなメロディにならないかなぁ。赤ちゃんがすぐに眠っちゃう素数オルゴールとか」

かじたくん
「本当にすごいですね。正直、数学の世界でこういう考え方をする人はいないと思いますよ」

ねじさん
「これを学問の世界で使うシーンは、論文になるんだと思うんだ。研究の道にかじたくんが進めば、必ずまとめるよね。アイデアの出し方を知った今のかじたくんなら、アウトプットの形はずいぶんと変わるはずだよ」

かじたくん
「全然知らない考え方に触れられたので、すごい楽しかったです。次に例外解を見つけたら、モジャって付けようかな。数学って、新しい発見をしたら勝手に名前を付けていいんですよ」

ねじさん
「しかも歴史に残るんだよね。いいなぁ。僕も今度、『御社の課題を解決するためには、φを用いて』って言おうかな。あの人、スゴイのかもって勝手に思ってくれそうだし」

発想の方程式で天才数学少年のアイデアづくりのプロセスをファシリテートしたら、数々のアーティスティックなすべり台が生まれました。

梶田くんは数学で、佐藤さんは企画やデザインで例外解をあえて求めにいきます。それは2人のクリエティビティが、そこで発揮されるからです。そして、これまでにたくさんの例外解に出合えたのは、山ほどの解を出す力とともに、運も持ち合わせている表れなのかもしれません。

孫正義育英財団には数学のほか、ロボット工学、化学、医学などの未来をリードする、多くの若き異能がいます。ファシリテート・クリエイティビティは、まだまだ続きます!

―― Profile ――

孫正義育英財団
梶田光
かじた・ひかる●2008年生まれ。孫正義育英財団3期生。得意分野は数学、プログラミング、音楽。2019年英検1級合格、特別賞受賞、同年、第17回日本フィボナッチ協会研究集会で「スーパー双子素数の個数公式と高橋条件」を発表。2021年数検1級合格、「ロボカップジュニア日本大会2021 World League Rescue Simulation」で第3位入賞。

co-lab / Blue Puddle
佐藤ねじ
さとう・ねじ●1982年生まれ。クリエイティブディレクター。デジタルコンテンツ、商品、店舗の企画から実装までを手掛ける。代表作に「アルトタスカル」「不思議な宿」「5歳児が値段を決める美術館」「劣化するWEBなど。著書『超ノート術』。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術祭・審査員推薦作品、Yahoo Creative Award グランプリなど。株式会社ブルーパドル代表。

クレジット
企画協力:公益財団法人 孫正義育英財団
企画コーディネート:春蒔プロジェクト 田中陽明、生田目一馬
インフォグラフィック:cocoroé田中美帆、渡辺祐亮
文:中村大輔
写真:ならぶき りく

特別協力:渋谷キャスト