孫正義育英財団×co-lab コラボ企画第五弾「ファシリテート!クリエイティビティ vol.5」

2人の社会起業家が見つけた、環境問題を「翻訳」する力

孫正義育英財団のギフテッドとクリエイターがクロストークすると、何が生まれるのか――。刺激を与え合い、創造的なコラボレーションを生みだし続けてきたクリエイターの集積地co-labと孫正義育英財団のコラボ第5弾。

高い志と異能を持つ若者に才能を開花できる環境を提供し、未来を創る人材を支援する。そうして人類の未来を明るくするために設立されたのが、孫正義育英財団です。

本企画は、渋谷キャスト内でのインナーブランディング企画としてco-labが提案し、2022年に初めて実現。

第一線で活躍するクリエイターが若きギフテッドの話を深堀りしていくことによって、本人も気づいていなかったクリエイティブな側面や、新しい視点を発見できるのではないか。「ファシリテート!クリエイティビティ」はそんなワクワクからスタートした、答えを探すことを目的としないブレスト対談プロジェクトです。

今回言葉を交わしてもらったのは、孫正義育英財団生で小学4年生のときに環境保護チーム「DREAM BUILDERS」を立ち上げた沖田美怜さんと、持続可能な漁業の推進や海洋生態系と生物多様性の保全を推進するコンサルティング事業を展開する株式会社UMITO Partner代表の村上春二さんです。2人の対話からどんな新しい知見が生まれるのでしょうか?

「かわいい」が拓く、環境問題への入口

村上春二(以下、村上さん):沖田さんが取り組んでいる活動のことがとても気になるので、聞かせてもらえますか。

沖田美怜(以下、沖田さん):私は小学4年生のときに「DREAM BUILDERS」という小中学生が主体となる環境保護チームを立ち上げました。環境問題の認知を広げるという目的で活動しているのですが、その事業のひとつが、ペットボトルのキャップをアップサイクルしたアクセサリーを販売することです。「かわいい」を入り口に商品に触れてもらって、そこから環境問題のことを知ってもらえたらいいなと思っているんです。

村上:素晴らしい活動ですね。これは小学生向けに販売しているんですか?

沖田:オンラインで売っているので、広くいろんな人に買ってもらえたらいいなと思っています。たとえば、お孫さんのプレゼントとか。

村上:こんなかわいいのがあったら買っちゃうよね(笑)。もともとどうやって一緒にチームを運営する仲間を見つけたんですか?

沖田:最初は学校内の友だちをベースに活動していたんですけど、徐々にその子たちの兄弟だったり、別の学校の知り合いの子にも広まっていって。

村上:すでに環境意識がある子もいれば、友だち同士のコミュニティだから参加したという子もいるのかな?

沖田:そうですね。みんなの興味が結構多様なので、それによっていろんなアイデアも出てきます。宣伝をするときにSNSに力を入れたほうがいいんじゃないかとか、もうちょっとお金をかけて商品をつくったほうがいいんじゃないかとか。

村上:沖田さんはそういうときにどういう役割を担うんですか?

沖田:私も結構意見を出すのですが、ひとりの独断で物事が決まらないのがおもしろいなと思います。みんな友だちっていうのがベースにあるから対等というか、みんなの意見を聞きながら決めていっています。

村上:めっちゃいいですね。

沖田:2025年の11月に「DREAM BUILDERS」を法人化したのですが、環境活動を事業化すると、偽善者的な見方をされてしまうことがよくあるんです。全部ボランティアでやれよ、とか。

村上:あーそれは僕も同じことがありました。沖田さんはそういうときどう説明しているんですか。

沖田:持続性を保つためには、やっぱりお金は必要だということを伝えています。村上さんが事業化の課題にどう向き合ってきたか知りたいです。

村上:僕はもともとアメリカの環境保護団体の日本支部で働いていたんですけど、アメリカでは事業化した活動が市民権を得ているんですよね。でも日本は「慈善活動=お金を稼いではいけない」みたいな美徳が根強い。環境によくなることでお金を稼げるなんて、それが一番いいことに決まっていると今は思います。むしろちゃんと稼げることを見せれば、他の人も真似して社会の厚みが出てくるんじゃないかなって。だから、もし沖田さんが何か言われたら僕が「それは違うよ」って言い返すよ。

沖田:ありがとうございます(笑)。

村上:さっきの「かわいい」を入り口にして環境問題を知ってもらうという考え方もすごく共感しました。たしかに「この商品はサステナブルで…」なんて言い方だと、興味を持ってない人は引いてしまったりするもんね。

沖田:知ってる人が増えたら、相対的に興味がある人も増えるんじゃないかなって思います。

村上:そうですよね、関心のない人をいかに振り向かせるか。僕もパタゴニアで働いていた時期があって、オーガニックコットンを使用しているけどそれは別に肌触りとかの問題じゃなくて環境保全や健全な土壌のためなんですね。消費者がたとえそこに意識が向いてなくても、買ってくれたお金は環境問題の解決につながるからいいと思うんです。課題を知ってもらう間口を広げるってことと、事業活動が環境問題解決のための資金になるという2つのメリットがある。

沖田:私も入口をほぐすというか、ピアノの初心者教則本みたいなポジションでいたいと思ってこの事業を始めました。いきなり譜面を開いても絶対わからないから、音符の読み方を習ったりするところを補助できるといいなと思います。

村上:いいね、いいね。

沖田:「DREAM BUILDERS」も今、まさに環境問題に触れる機会を提供する教育プログラムを作っているんです。そうしたプログラムに参加した経験は、受験のときに出願書に書くと評価を得やすいので、中学受験する子たちの保護者にも興味を持ってもらえるんですよね。

村上:なるほど、めちゃくちゃ戦略的!

沖田:そうしたら、今まで届かなかった人にも知ってもらえるのかなって。

村上:いかに向こうの関心に紐づけた仕掛けをつくるかって、僕たちの仕事でもいつも考えてることです。

すべては「楽しい」から始まった

村上:沖田さんが環境問題に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

沖田:スーパーで買ったサンマの中に、マイクロプラスチックの破片のようなものが入っていたんです。その時期に授業で環境問題について触れていたのもあったので、身の回りの問題として意識するようになったのが最初でした。

村上:それから、活動を始めるようになって。

沖田:自分的にはただ情報を調べるだけよりもインタラクティブなほうが学びにつながると思って活動を始めました。勉強をもっと楽しいものにしたかったんです。いろいろな活動をしていくうちに、自分の中ですごく大事なものになっていきました。

村上:なるほど。自分の「楽しい」という感覚とか、興味を持つ方向にちゃんと率直なのがいいですね。

沖田:村上さんが今の活動をするきっかけはなんだったんですか?

村上:僕は原体験という意味では家庭環境が大きかったかもしれないです。父親が釣り好きだったり、イノシシ狩りをしていたりして。その肉を鍋にしてみんなで食すこともあったから、食育にもなっていた。そうした体験が身近にあったから、潜在的に環境への意識が残っていたのだと思います。

沖田:私の祖父も狩猟をやっていて、住んでるところも港町なので、自然が近くにある環境に私も年2回くらい行っています。

村上:港で言うと、僕はサーモンが好きだったんですよ。

沖田:私もサーモン好きです……!寿司屋に行ったら、サーモンのバリエーションを全部頼みます。

村上:感覚が合いますね(笑)。サーモンはマジでアツいですよね。

沖田:村上さんが携わった中に、サーモンに関する事業とかもあるんですか?

村上:以前、宮城県の女川町でギンザケの持続可能な養殖をサポートしていました。養殖の原理を説明すると、稚魚に餌を与えても全部は食べきれず残骸が落ちる。それをバクテリアなどが食べると、同時に酸素も吸収して二酸化炭素を排出するんです。そうすると水中の酸素濃度が低くなって、海底では硫化水素という毒素が増殖してしまう。要するに、過密養殖をすると死の海になって生態系が壊れてしまう。じゃあどうやったらサステナブルな方法で養殖できるか考えたんです。

沖田:すごくおもしろいです。私が今展開している活動は教育とか受験とか、割と自分の知識のある方向に展開しているので、見えていない部分もすごくあるんだなって思います。食という、私たちの生活に欠かせない領域に関わっているのがすごいです。いろんな見方をした方が楽しそうだし、影響を与えられる範囲が広がるんだなって感じました。

村上:でも、頭で考えるのもめっちゃ大事だとは思うんですけど、熱量とか気持ちがついてこないとどうにもできないからね。だからさっきも言った、自分の思う「楽しい」がどこに向いているかを見つめるのがいいと思うんです。人生何をしてもいいなら、楽しいに越したことないよね。

異なる意見をつなぐ「翻訳」の力

村上:アクセサリーの制作とかって、工場とかにお願いしているんですか?

沖田:最近までは全部私たちで作っていたんですけど、ポップアップイベントを開催した際は「まめの樹」さんという就労継続支援事業所の方たちに手伝っていただいて。アースデイ東京の実行委員会で知り合った、労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団の黒田さんが紹介してくださって、一緒にできたら社会貢献にもつながると思ったんです。

村上:ともに制作を進めていったんですね。Webサイトも自分たちで作っているんですか?

沖田:はい。ちょっと手伝ってもらいながら、ワードプレスで作ってみました。

村上:自分でやってみるっていうのがいいですよね。僕は高校生の時に初めて自分で仕事をしようと思って出張洗車サービスを思いついたんですけど、そのチラシを紙の手書きで作ったのを思い出しました。時代の変化を感じますね(笑)。

沖田:文明って、いいです(笑)。でも、私はAIとか技術が発達したからこそ、人と人が対面で話し合うことが大事にされるべきだと思っていて。

村上:AIで情報を検索したり予測したりしても、結局、手触り感のあるものが勝敗を決めるって僕も思います。例えば、漁師さんに使ってもらいたいアプリがあります、というときに、どれだけ仮説的にいい製品を作っても、漁師さんの日々のニーズに合わないと意味がない。そうした考え方は大事にしたいですよね。沖田さんは、今後「DREAM BUILDERS」をどうしていきたいとかありますか?

沖田:私は細かいステップを目標にして動いていくタイプだから、明確なゴールはあんまり湧いてないんですよね。でも、とりあえず認知度を上げながら、目の前の小さな目標をクリアしていったらどこかに到達するんじゃないかなと思っていて。

村上:たしかにそうですね。楽しそう。もうひとつ沖田さんに聞きたいのは、例えば海の環境問題を切り取ったときに、社会のどこに対して違和感を覚えているとかありますか?

沖田:そうですね……。いい人と悪い人がいるならもちろんいい人ばかりになればいいなと思うんですけど、それは不可能だって思ってもいて。自我を持って生きている人がこんなにたくさんいるなら、こういう世界になってもしょうがないんじゃないかなって思うんですよね。

村上:そうかそうか。じゃあ、特定の誰かに対して違和感を覚えているわけではないと。

沖田:あんまり自分の中に絶対に正しいとか間違っているとか言い切れる感覚がなくて。ある人の意見も「たしかに」って思うし、それと逆のことを言っている人の意見も「たしかに」って思うんです。物事の背後にあるロジックを考えることはよくするし、モラル的に違うと思うこともありますけど、「この人の考え方は違う」と明確に思うことはないかもしれないです。

村上:とても素晴らしいですね。感情のコントロールが上手なんだと感じるし、異なる意見の人を巻き込んで、「翻訳者」的な役割を果たすことができるんだろうなと思います。環境問題に関心のない人に情報を届けるためには伝えるための言葉や活動に翻訳する必要があるし、その力が沖田さんにはあると思います。

沖田:ありがとうございます……!

村上:翻訳に少し通じますが、僕たちの今の活動は「キュレーション」や「編集」をしている仕事なんじゃないかって最近はよく思うんですよね。それぞれのよさを理解しながら共通の要素を抽出して、ひとつにつなぎ合わせることで価値を生み出す。そういう要素を沖田さんも持っているんじゃないかなって。そうした役割って今すごく大事になってきていると思っていて、粒と粒をつなぎ合わせないと、逆に分断のようなものが起きてしまうから。だからなんか、一緒に仕事とかできたらおもしろそうですけどね。

沖田:めちゃくちゃしたいです。

村上:さっき社会に対する違和感について聞いたのは、仮にその対象となりうる人物が僕の近くにいたら、それを聞かせることで新しい打開策が生まれてくることもあるかなと思ったんですよね。僕たちの会社自体も有効活用してくれたらいいなと思ったし。大人だけで頭を捻っても何も出てこないときに、沖田さんの目線で話をしてくれたら全然違うアイデアが生まれてくるだろうなって場面がいろいろあるので。

沖田:ぜひ、参加してみたいです!

村上:一緒にできることがあればやっていきましょう。

沖田:ありがとうございました!

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「楽しい」を突き詰める感覚や自分の身近な興味を大事にし、環境問題を自分ごとにして活動してきた沖田さん。持続可能な漁業など、食や生活に直結する領域で環境問題に向き合う事業を展開してきた村上さんとの対話によって、将来の可能性が広がっていく様子が垣間見られました。ふたりの今後の活動と、コラボレーションにも期待が膨らみます。

孫正義育英財団には数学、ロボット工学、化学、医学などさまざまな分野の未来をリードする、多くの若き異能がいます。ファシリテート・クリエイティビティは、今後もまだまだ続きます!

―― Profile ――

沖田美怜
おきた・みれい●孫正義育英財団9期生。小学4年生のときに小中学生が主体となる環境保護チーム「DREAM BUILDERS」を立ち上げ、2025年11月に株式会社Dream Buildersとして法人化。ペットボトルキャップをアップサイクルしたアクセサリー“EcoCharms”の販売や、環境問題に触れる機会を提供する教育プログラムを展開。「かわいい」を入口に環境問題の認知を広げる活動を行っている。

村上春二
むらかみ・しゅんじ●株式会社UMITO Partners代表取締役。持続可能な漁業の推進や海洋生態系と生物多様性の保全を推進するコンサルティング事業を展開。アメリカの環境保護団体やパタゴニアでの勤務を経て、現在は漁業や水産業における環境課題の解決に取り組む。宮城県女川町でのギンザケの持続可能な養殖サポートなど、食と環境を結ぶプロジェクトを手掛けている。

◆クレジット
企画協力:公益財団法人 孫正義育英財団
企画コーディネート:春蒔プロジェクト 田中陽明、生田目一馬
インフォグラフィック:cocoroé 渡辺祐亮
編集:ハガツサ 竹田磨央
文:原航平
写真:カトウカズヤ(KANKI

特別協力:渋谷キャスト