クリエイティブ思考によるポストコロナの解法 #4 教育に対する私的提案 ー3つの力の共育法ー

co-lab会員の方を登壇者にお招きした全4回に渡るオンラインイベント「クリエイティブ思考によるポストコロナの解法」。2020年6月8日に最終回となる座談会を三谷宏治氏(KIT虎ノ門大学院 教授)をお招きして行いました。
聞き手を熊井晃史氏(NPO学芸大こども未来研究所教育支援フェロー)、モデレーターを弊社田中が務めた本座談会は、三谷氏の本テーマによるプレゼンテーションと参加者を交えたワークショップ、最後は三谷氏への質問という構成で行いましたのでその様子をお伝えします。

三谷氏は「未来の大人に必要な3つの力」ということで、こんな話から始められました。

●私は親向け、子供向け、ビジネス向けのあらゆる研修や講演で、いつも冒頭にこんな「三択問題」を出しています。横棒だけを比べたとき、どちらの横棒が長いでしょう? Aの横棒が長いのか、Bの横棒が長いのか、それとも同じなのでしょうか。

●この問題に対して、9割以上が「同じ」と答えます。でもこの場合、正解は「Bの方が長い」なのです。この図は有名なミュラー・リヤー錯視図と似ています。人間は横棒に付いている部分が外側に開いていると横棒が長く見え、内側に閉じていると短く見えます。だから、Aのほうが長く見えて当然なのです。「でも実は両方同じ長さです」がミュラー・リヤー錯視図です。それを私がちょっと意地悪をしているのです(笑)
●多くの人が間違ったのはなぜでしょう? そう「知っていたから」です。人は「知っている」と思った瞬間に考えることをやめてしまいます。みんなが持っている知識・常識、それがいつか身を亡ぼすのです。なぜならどんどん考えなくなるから。

三谷氏は、どんな時代であっても本当に必要な力は変わらない、と訴えます。

●この数ヶ月間学校は閉鎖され、本来学習にあてられるハズだった子どもたちの時間を、ゲームやYouTube、SNSがどんどん食い潰していきました。親たちからは「どうすればいいのでしょう」「子どもに聞いてもやりたいことが他に無い」などといった相談が多く寄せられました。これほど大規模な感染症の蔓延は、多くの人にとって始めてです。だからどうすればいいかわからない。でも結局、求められていたのは「新しい状況にどう柔軟かつ迅速に対応できるか」でした。親たちだって、「オンライン学習で格差がある」と訴えるだけなく、親たちで出来ることを模索すればよかった。子どもたちに自らの時間をどう使うのか、ちゃんと問えば良かった。要は普段から、どれだけ「発想力」「決める力」そして「実行力(生きる力)」を高められるのか、がすべてなのです。
●2011年震災のあと、親向けに講演をやっていたとき親たちは真剣でした。それは子どもたちの「命がかかっている」と感じていたからでしょう。親や上司、役所からの指示を待っていたら死んでしまう。その場で、自分で見て、判断して、行動できなければ命を落とす危険がある。多くの親たちには、子どもたちにそんな力をつけさせるための覚悟がありました。でもすぐ薄れてしまいました。
●「決める」ことは怖いことなんです。人と違うことをすることだから。でも、だったら「決める」ことを楽しくしてあげればいい。決めることをイベントにして、どんどんやる。あらゆる機会をとらえて決める練習をする。でもそれは、ただ任せることではありません。ちゃんと調べたのか、考えたのか、その上でどう評価して決めたのか。そういった「プロセス」を問い続けます。
●残念ながら日本の教育課程の中に「決める」という項目はありません。でも、家の中にはいっぱいあります。そういった機会を意識的につくって決める力を高めていく、それは学校に頼るべきことでなく、家庭の問題だと思っています。小中学校では子どもたちが話し合って決める機会が結構ありますが、うまく子どもたちが決められない場合は先生が代わりに決めて終わりです。先生たち自身が決め方を学んできていないし、業務上も「話し合って決める」という機会があまりないからです。

●「子どもたちに与えるべきものはヒマと貧乏とお手伝いだ」と言っています。自分で調べ、考えさせ決めさせ、成功・失敗させる。自分で調べて考えて決めたからこそ成功すれば自信になり、失敗すれば反省になります。親が決めていては、自信にも反省にもつながりません。子どもたちが大人になるまでに、このサイクルをどれだけ繰り返してあげられるか、それが放牧型共育なのです。そのとき親に求められるのはもちろん「ガマン」です。任せたことが遅くても下手でも耐えるガマン、ああしろこうしろと口出ししないガマン、子どもが失敗しても見守るガマン。子育てって大変なのです(笑)

決める力など3つの力を高めるには家庭での教育が大切、と三谷氏。最後に学校での教育についても、提案がありました。

●日本人は人数が多いと喋らないという同調圧力がかかり、人数が少ないと喋るという同調圧力がかかります。それを利用した方法が「Find & Share」です。いきなり何かを考えて、みなで議論することは大変です。でも何かを見つけて(Find)、それを小チーム内で共有する(Share)ことなら簡単です。これであれば数十秒で出来るので、どんどん繰り返します。そんな授業であれば、座学のときでもちゃんと聞くしかありません。当てられるかもしれないから、ではなく、友だちだけの小チーム内でなにも話せないとイヤだから。たった数人(いつも手を挙げる子どもたち)が聞く授業から、全員が聞く授業に変えられるのです。

これこそがアクティブ・ラーニングの第一歩、と感じました。その後、参加者および熊井氏・田中から三谷氏へ質問が投げかけられました。

【参加者】今日の会のタイトルがポストコロナの解法ですよね。なのでその解法というのはどうしたらいいかということをお聞きしたい。
【三谷氏】解法って要はパターン化なわけですよね。でも必要なのはやっぱり個別の答え。これからも未知の問題はどんどん起きていく、それに対してちゃんと個別的に対応できる子どもたちを育てる。いち親として考えれば、解法でなく自分の子どもでは何が合ってるのかなと考えてあげる、それが答えじゃないかなって思っています。

【熊井氏】私は三谷さんの人間観みたいなところが気になります。一人一人かけがえのない代わりのない存在である。つまり個別性が高い。その感覚が三谷さんの娘さんが「私はお父さん・お母さんに認められている、だから挑戦できる」みたいな安心感にも繋がってくる気がした。
【三谷氏】私には田舎に十数人のいとこたちがいます。たまたま本家の長男だったから割と上のほうにいて、彼ら・彼女らの人生をずっと見てきました。みんな本当にいろいろで、「幸せかどうかと学力・学歴はまったく関係ない」と心から信じるに至りました。親にできることは、子どもたちが自分で決めて自分で道を拓く力をつけさせてあげることだけ。

【田中】その「決める」環境、「決めるモチベーションをつくる」環境は、どういうものがいいと考えますか。例えば東京に住む人だとしたら、どういった環境を用意すれば、「決める」気持ちが子どもたちに芽生えてくるのでしょう。
【三谷氏】福井とかの地方だと、大学進学者の県内進学率は3割に過ぎません。隣の県でも通学なんてできないので、つまり18歳で必ず家を出ることになる。なので小学生ぐらいでも「みんな高校を出たら一人暮らし」ってイメージすることになります。それは親もわかるし、子ども自身もわかる。これってとても大切だと思っていて、私は近隣進学率95%という東京に住みながら、子どもたちにずっと言ってきました。「高校出たら家を出ろ」って。自宅生より当然お金はかかります。でもそれがわが家の最後の教育投資です。

最後は田中からのコメントで閉会となりました。

「三谷さんのお話を聞いてとても、自分の子育ての参考になりました、たぶん明日から子どもに対する接し方が変わると思います。またみなさま、最終回にふさわしいこの素晴らしい会に参加していただきありがとうございました。このシリーズ、コロナ騒ぎが起きて政治も経済も立ち行かなくなって、こういうときにクリエイティブが一番機能するんじゃないかという衝動でこの会を企画しました。各分野の代表格の人たちがco-labの中に何人もいらっしゃるのでその方たちから何かお聞きできないかと。全4回で1000人以上の方に見ていただけてオンラインの凄さを実感しましたし、ご登壇いただいた方たちの知見を伺えて本当に良かったと思っています。」

(アシスタント・ディレクター:生田目)